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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)3869号 判決 1988年7月22日

原告

木村武

被告

株式会社宮山技術研究所

右代表者代表取締役

宮山繁

右訴訟代理人弁護士

栗宇一樹

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、二〇万円及びこれに対する昭和六一年四月三日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は、木村外国工業所有権法事務所の名称で、外国法に基づく、特許・商標登録手続の代理及びこれらに関連する手続等を行うことを業としているものである。

2  被告は、昭和六一年三月二七日、原告に対し、被告の著作に係る別紙目録記載の著作物(以下「本件著作物」という。)について著作権法七六条所定の文化庁長官に提出する第一発行年月日の登録申請のための手続書類の作成及びその提出手続を二〇万円の報酬をもって委任し、原告は、これを承諾した(以下「本件委任契約」という。)。

3  原告は、同年四月三日までに、右手続をしたので、同日、被告に対し、本件委任契約の報酬二〇万円を請求したが、被告は、これを支払わない。

なお、本件著作物は、同月二四日付をもってその第一発行年月日の登録がなされている。

4  よって、原告は、被告に対し、本件委任契約に基づく報酬二〇万円及びこれに対する履行期日である昭和六一年四月三日から支払済みに至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の原因に対する認否

請求の原因1は認める。同2のうち、報酬の金額の点を否認し、その余の事実は認める。同3のうち、原告が被告に対し報酬の支払請求をしたこと、被告がその支払いをしていないこと及び本件著作物について原告主張の登録がなされたことは認め、その余の事実は知らない。

三  抗弁

1  本件委任契約は、以下のとおり、被告代表者が、原告の欺罔行為によって錯誤に陥り、これによって締結したものであるから、これを取り消す。

すなわち、被告は、次の考案(以下「本件考案」という。)について実用新案登録出願をしていた。

考案の名称 NC装置用補助コンピューター装置

出願番号 昭五八―一一二三四三号

出願日 昭和五八年七月二一日

出願公開日 昭和六〇年二月一三日

出願公開番号昭六〇―二〇六一一

本件著作物は、右実用新案登録出願の願書に添付した明細書に記載された図面及びその説明と同一であるところ、その内容は、右出願公開日に公開されており、また、著作権取得のためには何らの様式も必要としないのであるから、本来、被告としては、単に登録の年月日において著作物の最初の発行又は公表があったことが推定される効果しかない第一発行年月日の登録をする必要は全く存しなかったのである。しかるに、原告は、本件考案の出願公開後、本件考案の存在を知り、法律に疎い被告代表者に対し、被告の創作に係る「NC工作機械群の中央制御システム」、すなわち本件著作物について第一発行年月日の登録をすれば、これによって、その回路著作権を取得することができる旨申し向け、あたかも右登録をすることによって、本件著作物について著作権を取得することができることになるかのように被告代表者を誤信させたうえ、本件委任契約を締結するに至らしめたものである。

2  原告は、弁護士、弁理士及び行政書士のいずれでもないところ、本件委任契約は、原告が、業として、報酬を得る目的で、著作物の第一発行日の登録申請の代理という法律事務を取り扱うという、弁護士法七二条に違反することを目的とするものであるか、あるいは、原告が、業として、被告の依頼を受け報酬を得て、官公署である文化庁長官に提出する書類を作成し、この書類を提出する手続を被告に代って行うという行政書士法一九条に違反することを目的とするものであるから、民法九〇条に照らして無効である。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1のうち、被告の実用新案登録出願及びその出願公開の点を認め、その余の事実は否認し、その主張は争う。被告は、原告に対し、自ら本件委任契約を申し込み、第一発行年月日の登録を受けていながら、後になって必要がなかったなどと主張することは許されない。

2  抗弁2は争う。原告が弁護士、弁理士又は行政書士であるか否かということは、本件とは無関係である。

第三  証拠関係<省略>

理由

一請求の原因1及び2の事実は、同2のうちの報酬金額の点を除いて、当事者間に争いがない。

二そこで、抗弁について判断する。

<証拠>を総合すれば、原告は、弁護士、弁理士及び行政書士のいずれでもないことが認められる。また、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第五号証及び第六号証によれば、原告は、本件のほかにも、木村外国工業所有権法事務所の営業として、顧客から、プログラム著作権あるいは電子回路著作権の第一発行年月日の登録申請のための手続書類の作成及びその提出の依頼を受けてこれを行い、その報酬を受けている事実が認められ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実及び前記争いのない事実を総合すれば、本件委任契約は、法律上、行政書士の業務を行うことができる資格を持たない原告が、業として、他人の依頼を受け報酬を得て、官公署に提出する書類を作成するという、行政書士法一九条一項の規定に反することをその主要な内容とするものであることが認められる。ところで、行政書士法一九条一項は、公益目的のために、行政書士でない者、その他法律上行政書士の業務を行うことのできない者が、業として、行政書士に認められている業務を行うことを禁じているものであり、その違反に対しては、同法二一条により、刑罰の制裁をもって臨んでいるのであるから、同法一九条一項に違反することを主要な内容とする本件委任契約は、民法九〇条に照らし、全体として効力を生じないものというべきである。

したがって、抗弁2は理由がある。

三以上によれば、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条の規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官清永利亮 裁判官房村精一 裁判官若林辰繁)

別紙<省略>

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